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Letter from Clinic (Oct issue) 2021

30 Sep 2021

理学療法士 重松美穂


 


 


 近年、学齢期の問題の一つとして、授業中にきちんと座れないお子さんが増えてきているということを耳にすることがあります。一定時間、姿勢を保持することが困難なお子さんが増えているようです。


実は、私達の姿勢の土台作りは赤ちゃんの頃から始まっています。今回は、姿勢はどのように保持されているのか、なぜ赤ちゃん時代が姿勢の土台となるのかを中心にお話していきたいと思います。


 


姿勢保持に必要な力とは


 


 私達は生活の中で様々な姿勢をとっています。その時その時に見合った姿勢を選択しています。各姿勢を保持するために必要な要素としては、主に、関節の可動性、保持するための筋力、適度な筋緊張、ボディイメージ(自分の頭、体、手足がどのような状態になっているか)、バランス能力(平衡感覚。重心の位置、重力に対して体や頭をどのようにコントロールするか)が考えられます。この中でも、特にボディイメージとバランス能力は、実は赤ちゃんの頃から育てていくことが可能な力だと考えられます。


 


バランス能力とは


 


 バランスは、姿勢反射という反射によって引き起こされています。姿勢反射は、原始反射、立ち直り反応、平衡反応に分類されます。原始反射とは赤ちゃんが胎内にいる頃から持っている力で、主に生命の維持や動きのバリエーションを増やすために起こる反射です。胎内にいる時は、重力の影響が少ない環境で自身の体を動かしていますが、お母さんのお腹から出た途端に重力下での生活が始まります。原始反射は、重力下での姿勢の維持やコントロールを学習する機会を与えています。そして、成長に併せて原始反射は消失し、より高度なバランス反応系として立ち直り反応、平衡反応が出現します。立ち直り反応は、頸部、頭、体の相互の位置関係を整える働きがあり、4〜6カ月頃に出現します。また、迷路性と言われる体の傾きに対し頭を垂直に保持する反応や、視覚性と言われる立ち直り反応により、頭を垂直に保つ経験をします。


 これらの反応によって、寝返りが可能になり、座位への準備が可能となります。さらに月齢が進むと、次は平衡反応と言われる反応が出現します。これは、上述の立ち直り反応が支持面内での重心移動に対するバランス反応であったのに対し、支持面を外れる大きな重心移動に対してバランスを保つための力です。お座りをするようになった赤ちゃんが前後左右へと手をついて姿勢保持する場面があると思います。大体6カ月頃より出現します。この反応を使うことで、安定した座位の獲得、またそこから重心を支持面から外して動きを作ることでお座りからハイハイへの移行を可能にしています。


 また1歳〜1歳半頃には、歩行獲得のための立位での平衡反応が出現します。立位から重心を支持面外に外した場合のステップ反応などです。


 最後の平衡反応という反応は、生涯継続されるものであり、私達は無意識下で調整しています。しかし、姿勢を保持するのにとても大事な反応であり、また運動時のパフォーマンスにも影響を及ぼします。


 


赤ちゃんは毎日、自分の体の位置関係と重心移動を学習している


 


 上記のバランス反応には、体の位置関係を感じ取る力(固有感覚=各関節の曲がり具合、方向、筋肉の張り具合、体の傾きや回転など)とこの支持面(地球上で空間に自分の身を定位させるには、必ず体のどこかが地面に接している必要がある)がまず必要であり、姿勢保持するための筋力、可動性も身に付けていく必要があります。


 赤ちゃんは毎日自分の体を使った遊びを通して、挑戦と失敗を繰り返しながら、必要な感覚や筋力を養っていきます。たくさんの偶然が重なりながら自分の体に気づき、外の世界との繋がりを学習していきます。随意運動が徐々に増えていく中で、支持面と重心移動を学習しています。


 親御さんが一緒に遊ぶ場面では、赤ちゃん自身の体への気づきを促すような関わり(手遊び、タッチングなど)や前庭感覚系への働きかけ(揺れ、傾き、回転、高い高いなど重力を感じる動きなど)を取り入れると良いと思います。また、二足歩行獲得後、バランス反応に関して将来的に重要になってくる足底の感覚受容器を育てる意味でも、足裏マッサージや足趾の運動(一本一本バラバラに動かしてあげること)などが有効だと思います。


 


 今回は、姿勢の土台は赤ちゃん時代から始まる姿勢反射の力が大きく関与していることをお伝え致しました。もちろんそこが全てではありませんが、自分自身の体への気づき(ボディイメージ)やバランス反応に働きかける関わりは、姿勢作りに良い影響を及ぼすと考えます。また、既に学齢期を迎えているお子さんに対しても考え方としては一緒で、支持面に対しての重心移動や体の使い方を、遊びの中で学習していくと良いと思います。特に幼児期、学齢期のお子さんでは、足底の感覚をしっかり鍛えることで椅子座位や立位時、もしくは運動時の姿勢保持、体のコントロールが向上すると思います。バランス能力を鍛えながら、外遊びなど体をたくさん使う活動を通して体幹筋、下肢筋など姿勢保持に必要な筋力を鍛えていくことが可能と考えます。


 皆さんの普段の遊びの参考にして頂けると幸いです。


 


〈参考図書〉


・乳児の発達−写真でみる0歳児−(2006) J.H.de Haas 医歯薬出版株式会社


 


 


プロフィール:原田舞香(はらだ まいか)


重松 美穂(しげまつ みほ)理学療法士


日本にて重症心身障がい児者施設・重症児者専門訪問


看護ステーションにて10年間勤務。2019年より日本人会クリニック


勤務。赤ちゃん体操、トドラー体操開催。また、個別の運動療法も開始。

 Letter from Clinic (Oct issue) 2021