Letter from Clinic (June issue) 2022
26 May 2022
臨床心理士・公認心理師 坂牧円春
大人でも子どもでも、日々過ごしていると困ったり、悩んだり、途方に暮れたりすることがあります。そのような時に、皆さんはどうしているでしょうか?私たち人間は、不安や恐怖を抱えていると、視野が狭くなり、マイナス思考になってしまうことが度々あります。そのような時に友人や家族、あるいは専門家に助けを求めることができるでしょうか?他者に助けを求めることを「援助希求」と言います。適切な「援助希求」ができることは、生きていく上でとても大事な力と考えられています。
子どもであれば、幼稚園や小学校で、困った時に「ねぇ〇〇くん、これどうしたらいいの?」「先生、さっき言っていたことがわからないので、教えてください」「手伝ってくれない?」と言えば、周りの人たちは、教えてくれたり手伝ってくれたりするでしょう。援助希求ができることで、小さな問題をすぐに解決することができます。しかし、もし困った時に何も言わず黙ったままでいると、周りの人にも気づいてもらえず、小さな問題が解決できず積み重なっていき、大きな問題になることもあります。少し教えてもらえば、本来子ども自身で解決できることも、解決する経験にならず、できないままになってしまうこともあります。
大人でも同じことが言えるでしょう。幼少期から、援助希求をしてきた経験がないと、大人になっても他者に「教えて」「手伝って」と助けを求めることができない場合が多いです。仕事や子育て、対人関係にまつわることでも、他者に助けを求めればすぐに対処できる小さな問題が、自分ひとりで抱えて時間も労力も精一杯かけ、一人で対処しようとするあまり大きな問題になってしまうこともあるでしょう。またそのようなことが繰り返され、「どうして私がこんな目に遭わなければならないの?」「私には何もできない…」とマイナス思考になってしまい、生きづらさを感じていることがあります。本当は助けてもらいたいのに、助けてもらえないことで、家族や職場、周囲の人たちに対して、不満や嫉妬、妬みを抱いてしまうこともあります。
助けを求められない背景には、思考のくせがあるかもしれません。
例えば・・・
●助けを求めると相手に迷惑がかかる
●助けを求めるのは、弱い人間がすること
●自分は他者に助けてもらえる存在ではない
●相談したところで、誰もわかってくれない
●どのように助けを求めていいのかわからない
「自分もこのような考え方をしているかもしれない…」と思い当たる人も多いのではないでしょうか?
大切なことは、「他者に頼ったり、助けを求めたりするのは恥ずかしいことではなく、誰もが健康に生きていくために必要なことである」ということを、認識することです。誰でも、迷い、悩み、途方に暮れることがあるのです。そこで、身近な人に助けてほしいことを具体的な言葉で伝えてみませんか? そうすると意外と、すんなり手伝ってくれたり、助けてくれることがあります。
助けてもらうと、ホッとしたり、安心したり、嬉しくなったりします。大人がそのような気持ちを感じて、人に助けを求めながら、安心して日々を暮らしていくことで、そのようなやりとりを間近で見る子ども達も「他者に助けを求める」ということを学んでいきます。家族の中で学んだことや身につけたことを、幼稚園や学校などの外の環境でも実践してみて、子ども自身は実用可能なスキルとして積み重ねていきます。
プロフィール:坂牧円春(さかまき まどか)
臨床心理士・公認心理師
日本女子大学人間社会学部心理学科卒業、日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程前期修了。
非常勤講師として専門学校や大学に勤務し、臨床心理士として精神科クリニック、幼児相談室、大学の学生相談室、保健センターでの乳幼児健診、心の健康電話相談などでの臨床経験を経て、2017年2月より日本人会クリニックに勤める。
好きなこと;料理、読書、旅行、シュノーケリング