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Letter from Clinic (Jan issue) 2022

01 Jan 2022

臨床心理士 坂牧円春


 


 


アタッチメント(愛着)という言葉を聞いたことがありますか?アタッチメントとは、イギリスの児童精神科医ボウルビィ(John Bowlby)が提唱した概念で、「特定の人に対する情緒的な絆」のことを表します。主には養育者と子どもの関係の中で形成される情緒的な絆です。


 アタッチメントというと、ピタッとくっついているイメージを持つ方もいるかもしれません。そこから、「依存」や「甘え」だと誤解されることもありますが、実際には少し違います。


 


 アタッチメントの機能には2つの大切な機能があります。


①安全基地機能:子どもが恐怖や不安を感じる危機的な場面で、その人のそばにいることが確実な避難場所としての安全基地となります。安心と慰めによって、ネガティブな感情をコントロールすることができます。


②探索基地機能:危機がない時にもいつでも逃げ込める安全基地があることで、安心しながら、外の世界を探索することができます。課題を達成したり、問題解決をしたりする基盤になります。


 


 例えば、1歳の子どもとお母さんを想像してみてください。お母さんが子どもを連れて、初めて知り合いのお家に遊びに行った時、子どもはどのような行動をするでしょうか?


 子どもにとっては、初めて行く場所なので、緊張していたり、これから何が起こるのかわからず不安に感じたりして、最初はお母さんのそばから離れず、お母さんに「だっこ、だっこ」と求めていました。お母さんは、その子どもの不安げな様子を読み取り、「うん、うん。大丈夫よー。〇〇さんのおうちよー」と言いながら、微笑み、優しく抱っこしてあげ、しばらく子どもを抱っこしたまま、知り合いの方とおしゃべりをしていました。


 このお母さんの一連の動作(子どもの不安を読み取り、抱っこの要求に応えて、微笑んで、抱っこしながら優しい声で「大丈夫よー」と声をかける)が子どもにとって、安全基地となります。


 そして、子どもはしばらくお母さんに抱っこされながら、部屋の様子を見て、いつものお母さんの匂いを嗅ぎ、お母さんと知人がおしゃべりするおだやかな声を聞き、徐々に不安が軽減されていくと、部屋の中にある物に興味を示し始め、「あっ」と知っているキャラクターのぬいぐるみを指差し、おりたそうに身体をよじり始めました。それに対して、お母さんは「あっ、本当だ、ミッキーだね!〇〇ちゃんも持っているね。同じだー」と言いながら、おろしてあげました。子どもはそのミッキーのぬいぐるみの方へよちよち歩いていき、ぬいぐるみをそっと触ったり、ポンポンと叩いたりしました。その近くにあった絵本に手を伸ばした時に、積み重ねられた絵本の山が崩れしてしまい、子どもは驚きます。子どもはお母さんの方を振り返って、お母さんがどんな表情をしているか確かめると、お母さんが優しいまなざしで「あら〜、びっくりしたねー。大丈夫、直そうね。どの本が見たかったの?」と声をかけ、近寄ります。そうすると、また子どもは興味のあった絵本に手を伸ばし始めました。お母さんは、また知人とおしゃべりを始めました。


 


 このように、お母さんの一連の動作による安全基地のおかげで不安感が軽減され安心感が高まると、新しい場所を探索したくなり、安全基地から外に出ていくようになります。これが子どもにとっての探索基地機能です。探索している最中で、うまくいかないことがあったり、びっくりしたりして不安に感じた時、“お母さん”の存在を確認したくなり、振り返り、お母さんが自分のことを見守っていることを確かめて、また新たな探索をし始めます。


 このような日々の親子のやりとりを繰り返していくことで、養育者と子どもの間に安定したアタッチメントという情緒的な絆が形成されていきます。


 ここで挙げた例は、1歳の子どもとお母さんの例ですが、このアタッチメントは、何歳になっても心の中にイメージとしてあり続けるものです。


 自分が何か恐怖や不安を感じた時に、きっと誰かが助けてくれる、支えてくれる、安心できる場所があるんだと思える。その安心感を得られるイメージが心の中にあるから、新しいことに挑戦したり困難があったとしても、助けを求めたり、自分で調整しながら、乗り越えていくことができます。


 このアタッチメントは、乳幼児期にうまく形成できなかったら、取り返しのつかないことになると誤解されることもありますが、そうではありません。確かに乳幼児期の方が形成しやすいということはありますが、修正していくことはできます。たとえ、自分の養育者との関係が、安定したものではなかったとしても、その後の人生で、「重要な他者」と出会い、肯定的な安定した関係を形成することによって、その人の人に対するイメージは変化していくことがあります。その「重要な他者」は学校の先生かもしれないし、恋人やパートナーかもしれません。リスクの高い環境の中で育ったとしても、一貫して良好に適応しながら過ごされている人もいます。


 


 時には、カウンセラーが「重要な他者」となることもあります。カウンセリングを通して、安心感と癒しを提供し、安全基地があるんだという感覚を高めていき、その人が本来もっている力を活かし、外の世界へ探索でき、困難なこともほどほどに乗り越えていけるようにと願いながら、お会いしていきます。そうすると、当初不安だったことが不安に思わなくなり、自分の心地よいあり方が見えてくることがあります。


 


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坂牧 円春 Madoka Sakamaki


臨床心理士(臨床心理士資格認定協会)


日本女子大学人間社会学部心理学科卒業、日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程前期修了


非常勤講師として専門学校や大学に勤務し、臨床心理士として精神科クリニック、幼児相談室、大学の学生相談室、保健センターでの乳幼児健診、心の健康電話相談などでの臨床経験を経て、20172月より日本人会クリニックに勤める。


好きなこと;料理、読書、旅行、シュノーケリング

 Letter from Clinic (Jan issue) 2022