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Hello Interview J.CLAIR SINGAPORE  Director Mr Sakurai Taisuke(April issue 2023)

31 Mar 2023

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J.CLAIR SINGAPORE


(一般財団法人 自治体国際化協会


シンガポール事務所)所長


櫻井泰典さん


 


より深く、密な関係を築ける地域間の交流は、国同士のつながりの礎になると思います。


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プロフィール


櫻井泰典(さくらい たいすけ)


2000年自治省(現 総務省)入省
総務省のほか、大阪府、富山県、福島県等での勤務を経て、2021年8月より(一財)自治体国際化協会シンガポール事務所長


 


 J.CLAIR Singaporeの所長である櫻井さんにお話を伺いました。(取材日:2023年2月20日)


J.CLAIR Singaporeでは、どのような活動をされているか教えてください。


櫻井さん 日本名は「自治体国際化協会」といいます。日本の自治体の共同の現地事務所をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。シンガポール事務所は、ASEANとインド、スリランカで、様々な活動をしています。 


 簡単にいうと、1つ目は日本の自治体がこちらで活動する際のサポートです。自治体が物販や観光誘客などで活動される際のお手伝いがイメージしやすいかもしれません。その他にも、自治体が取り組みの参考とするために、シンガポールなどの政策を調べたりすることもあり、その際のお手伝いもしています。 


 2つ目は自治体の関わる国際交流や国際協力です。例えば2022年度はインドネシア、タイ、フィリピンで、それぞれの政府と、自治体の行政サービスの課題解決の経験を共有するセミナーを開催しました。また、日本の自治体から各国に専門職員を派遣することもあります。例えば直近では、クアラルンプール市の要請で、防災の専門家である日本の県職員を派遣したり、インドネシアに農業技術の専門家を派遣したりしました。 


 3つ目は、情報収集と発信です。それぞれの国で、国と地方の役割分担はどうなっているか、税や財政、教育や福祉の仕組みはどうなっているかといった国の成り立ちの基本的な情報や、日本の自治体の取り組みの参考となりそうな個別の施策を、分析、整理して、国や自治体に提供しています。こちらはホームページでも公開しています。 


日本の自治体はどんなことに関心を持っているのでしょうか。


櫻井さん 一般的にイメージされるような、地域の産品の輸出や、観光客の地域への誘客、地元企業の進出支援といったことはもちろんですが、それ以外にも多岐にわたります。シンガポールで最近目立つのはスタートアップ支援関係で、シンガポールの支援の仕組みで取り入れられる部分がないか調べたり、日本にある支援施設とシンガポールの施設の連携や、起業家同士の交流を進めたりと様々な自治体が取り組んでいます。 


 シンガポールは都市国家で、日本では自治体がやっていることも政府が直接やっているので、住民に密着したサービスのデジタル化や都市計画について、調べに来たり、連携したりということも多いです。周辺の国をまわっても感じることですが、例えば「地域の人口減少対策」とか、「手続きのデジタル化で、高齢者にどう対応するか」など、どの国でも自治体の課題は意外なほど似ていて、ある意味みんなが解決に向け実証実験しているようなものなので、他国の事例も大変参考になります。 


 また、シンガポールのホテルやインターナショナルスクールを誘致している自治体もありますし、公共バスの運行実験にシンガポール企業が参画するなど、社会課題の解消にシンガポール企業の知見を活かす事例も増えています。 


日本の地方自治体と世界をつなぐ仕事をされる中で、印象に残っていることは何ですか。


櫻井さん 日本や地域を大切に思ってくださる皆さんに直接お会いできたことでしょうか。シンガポールや周辺の国で、日本に留学経験のある皆さんにとてもお世話になっています。随分前に日本にいた方にも温かくしていただきますが、これは留学されていた皆さんのお人柄のおかげでもありますし、これまで接した日本人の皆さんのお付き合いの積み重ねでもあります。どちらにも感謝するとともに、かけがえのないものだという思いを強くしています。 


 先日、インドでJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme)経験者の方々が、日本語のスピーチコンテストや、日本文化を体験するイベントを開いてくれました。インドにはJET経験者は少ないのですが、それぞれの仕事もある中で準備をしてくれ、彼らの声掛けで、日本人学校の先生がボランティアとして、習字や茶道から空手まで様々な体験ブースを運営してくれました。目を輝かせて、嬉しそうに体験してくださった参加者の姿が心に残っています。インドで日本語を学んでいる方が流暢な日本語で寸劇やアニメの主題歌を披露してくれたのも、楽しく嬉しい驚きでした。 


JETプログラム、少しだけ聞いたことがありますがどのようなプログラムでしょうか。


櫻井さん 海外で日本に興味を持ってくれている若い方々を、外国語の指導助手として学校に、国際交流員として県庁や市役所などに派遣するプログラムで、日本の自治体と総務省、外務省、文部科学省、そして弊会が共同で運営しています。今日本に派遣されているのは5千7百人以上で、世界各国に7万5千人、シンガポールにも4百人以上の経験者がいます。 


 一般的には3年程、日本各地の自治体や学校に派遣されます。職種問わず、地域の皆さんとの交流に積極的な方が多く、その地域については大方の日本人より詳しくなって帰ってきます。広島に行き、「カープ女子」になり、かなりの野球通になった方もいらっしゃいます。帰国後も、JETAAというOB会、OG会で日本や地域のPRや、日本人との交流などをしてくれる方も多いです。シンガポールのJETAAは、非常に活発で、私たちの活動もサポートしてくれています。 


 全国各地で、外国語や文化に接する機会を与えてくれるだけでなく、それぞれの母国に帰国後も、日本と各国の架け橋となってくれています。様々な分野で活躍する日本経験者が多くいることは、大きな財産だと思います。 


各国との友好関係を築くために必要なことはどんなことだと思いますか。


櫻井さん 個人的には、長期的な話かもしれませんが、人的交流を長く継続することが大事だと思っています。JETプログラムも例の一つですが、直接会って仲良くなった人の国には興味も持ちますし、親近感を持つことも多いかと思います。 


 かつて仕事をしていた県では、友好協定を結んだ相手の団体と、県庁はもちろん、大学、小中高、病院、企業と様々なチャンネルで職員や学生の相互派遣を行っていました。何十年も続けていると、その広がりは大きなもので、先方から訪問団が来た時には初めて会う人でも誰かしら共通の知人がいました。そうなってくると、例えば企業も海外に出るなら同郷の知り合いも多いこの地域にしようとか、学生も留学するなら周囲に行ったことがある人のいるここにしようとか、さらに交流が活発になります。その両団体は都会ではないですが、結果、コロナ前まではずっと、週3便の直行便で結ばれていました。 


 もちろんより現実的な要因や障害もありますし、それだけでうまくいく、というものではないかもしれませんが、人的交流を長く継続して、文化面にまで入り込むと国同士もより安定感のある関係になるのではないかと思います。より深く、密な関係を築ける地域間の交流は、国同士のつながりの礎になると思います。


活動を行う中で感じた「日本の強み」や「魅力」は何ですか。


櫻井さん こちらに来てから、さまざまな地域のプロモーションに参加させていただくこともあり、改めて、日本は、地域ごとに多様な自然や文化、食べ物に恵まれていると感じます。多様ですが、それが全部あって日本の魅力を形づくっていると思います。私自身も、出身は関東ですが、関西、東北や北陸で生活したこともあり、いずれにも思い入れがあります。 


 協調性や一体感もあるかと思います。シンガポールでは他の日系機関や企業の皆さんと共に取り組むことも多いですが、お互いができることを率先してやる雰囲気で、大変助けられています。先日のインドのイベントでも、日本人学校の先生ご本人だけでなく、ご家族まで手伝ってくださいました。また、折り紙体験で、人数が多く声が届かなかった時には、その場にたまたま会場にいらしていた日本人の方々が、何も言わずともサポートをしてくださいました。こんな時には、「やっぱり日本っていいな」と思います。 


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今後力を入れていきたいことは何ですか


櫻井さん 海外への日本の発信ももちろんですが、日本への発信をもっと強めたいです。シンガポールだけではなく、周辺の諸国でも、いわゆるリープフロッグ的に、一足飛びに、より進化した形で行われている取り組みもあります。各国でやっているセミナーも、コロナ以後オンラインを併用するようになったこともあり、これまでは参加が難しかった日本の自治体への配信も行うようにしたところ、タイでのセミナーでは日本からも100近くの自治体の参加がありました。 


 また、ビジネスベースでも、配車サービス、決済システム、食品残渣の商品化など、社会課題を解決する取り組みが、シンガポールや周辺諸国でたくさん生まれています。日本でも、地域によっては人口が大きく減り、様々なインフラの維持が課題になっていますが、技術の進歩や工夫でより効率的にできることもあるはずです。新たなやり方を考える際に参考になりうるものを幅広く探し、伝えたいと思っています。 


 それから、日本の各地域にこちらのリアルな雰囲気を伝えていきたいです。昨年、職員の地元の市の学生たちとこちらをオンラインで結び、中継で様々な文化スポットを案内したところ大変好評でした。文化的な面を紹介してシンガポールや世界に興味を持ってもらえればと思いますし、それだけでなく、こちらにいると肌で感じる、シンガポールはじめアジアの発展の勢いも多くの人に体感してもらいたいと思っています。実は、都道府県単位での日本のパスポート保有率は高いところで3分の1、低いところでは1割以下です。学生同士など様々なチャンネルで、できるだけ国外の雰囲気に触れる機会が作れればよいと思います。 


 シンガポールには、様々な分野で活躍する日本人の皆さんがたくさんいらっしゃるので、多くの話を伺って、知識も刺激も頂いています。それを少しでも日本に伝えていければと思っています。 


仕事以外の時間はどのように過ごしていますか。


櫻井さん 最近はありがたいことに来訪者が増え、週末は、セントーサコーブやシンガポールリバー沿いなど島内の様々なところにご案内していることが多いです。自分では当たり前になっていて気づかなかった良さを、言われて新たに気づくこともあり、何度行っても楽しく過ごしています。日本人会の史蹟史料部会にも参加させていただいていますが、実は、中学時代に「シンガポールの歴史の教科書を読む」という授業があり、当時の本を紐解きながら、史跡をめぐるツアーに参加したり、教えていただいた博物館に行ったりしています。 


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島内で好きなところはどこですか。


櫻井さん 海沿いや川沿いが好きですが、ホーカーで食べたり、近所のウェットマーケットで食材を見たり買ったりするのも楽しいです。まだまだ知らないところがたくさんあるので、行ったことのない場所も訪ねてみたいと思っています。 


南十字星の読者に向けて一言お願いします


櫻井さん 事務所には日本各地の自治体から派遣されている職員がいます。県人会などで見かけた際には、故郷の話をしつつ、シンガポールや周りの国でのお仕事や、生活で感じたこと、お勧めの場所など色々お教えいただけると嬉しいです。 


<インタビュー後記>


 今回はJ.CLAIR Singapore所長の櫻井さんにインタビューを行いました。学生時代から現在に至るまでのお話の中で、各国で出会った方々との繋がりや思い出を大切にされているお人柄が印象的でした。国が違っても社会課題は共通しているものが多いことや謙虚に学ぶ姿勢を持ち続けること、そして小さなことでも発信していく大切さについては、授業を通して今の生徒たちにも伝えていきたいと私自身感じました。


 ご多忙の中、インタビューにご協力いただいた櫻井さん、J.CLAIR Singaporeの皆さん本当にありがとうございました。


文責・写真:日本人学校中学部教諭 松田航平、小松真奈美、日本人会広報部理事 神田真也


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